アメリカの知覚心理学者J.J.Gibson(1904-1979)によって創始された「認識と行動への生態学的アプローチ(生態心理学)」が、知覚の哲学、特に知覚的な外界認識の問題に対し、どのような解決策もしくは解消法を提案することができるのかを以下の3点の存在論的考察にもとづいて検討した。(1)アフォーダンスの存在論、(2)アフォーダンスを知覚するための生態学的情報の存在論、(3)生態学的情報を利用する身体機構としての脳や神経の役割である。これらの検討をとおして、生態学的アプローチから示唆される新たな(心の)哲学の可能性として、認識批判ではなく環境(存在)批判を中心にした「生態学的哲学」(他者や歴史を含んだ広い意味での環境に内属しながら生活する「生態学的存在体制」から、ヒトの生を探究する哲学)が心の哲学の諸問題(外界の認識の可能性、表象主義と反表象主義の論争、心身問題)にとって有効であることを示した。
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