近世における中国ムスリムの人生儀礼研究の具体的な分析として、劉智が著した『天方典礼』の婚姻篇、喪葬篇を引き続き検討しているが、今年度は山東省のモスクを中心としたムスリムコミュニティの調査を行い、文献からは見えてこない現代中国におけるムスリムの現状理解をはかり、文献理解の一助とした。 今回の調査地である山東省の濟寧は、本研究が対象としている近世中国において、ムスリム教育の拠点となった土地である。当時、とりわけペルシア語文献を重視した教育を行っていたことで有名である。現在はペルシア語にかんしてはほとんど講習されていなかったが、東大寺モスクのアホン(宗教指導者)が、英語学習によって中国ムスリムの宗教活動が海外に広がることを望んでいたことが印象的であった。 また海外のムスリムからは中国ムスリムの宗教生活がルーズであると非難されることがままあるが、喪礼はきちんとシャリーアにしたがって行っているということを強く主張していた。人生儀礼のなかでも喪礼を大切にする姿勢がみてとれた。
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