近世における中国ムスリムの人生儀礼研究の具体的な分析として、昨年度にひきつづき劉智が著した『天方典礼』の婚姻篇、喪葬篇を引き続き検討を行った。また今年度は黒龍江省哈爾濱市のモスクを中心としたムスリムコミュニティの調査を行い、文献からは見えてこない現代中国におけるムスリムの現状理解をはかり、文献理解の一助とした。 『天方典礼』を読み進める過程において、中国ムスリムがイスラームの人生儀礼は儒教のそれと近似していると主張していることが認められた。ムスリムが考えるイスラームと儒教との人生儀礼の共通性は、おなじ倫理道徳を共有しているという自負がその根拠となっていることがわかった。イスラームと儒教の一致はのちに「釈疑(疑いを解く)」という言説の中心テーマになっていくことが看取できる。 今年度の研究によって、この「釈疑」言説の分析に必要性が浮上した。大多数である漢民族にイスラームの存在を認めさせようとした「釈疑」言説の検討をとおして、中国イスラームの特質の一端を明らかにしていきたい。
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