今年度は、昨年度から継続して『プラマーナ・ヴァールッティカ』の自己認識説を中心に文献解読の研究を進めると同時に、ダルマキールティの認識論における宗教的要素の解明に力を注ぎ、以下の論文・口頭発表においてその成果を報告した。 1. ダルマキールティが聖典選択の方法の一つとして提示した「聖典に依拠する推理」(agamapeksa-numana)という概念に注目し、この推理の前提となる「他学説の暫定的承認」(abhyupagama)と「学説との矛盾」という考え方は、インド哲学における「討論の伝統」(vada-tradition)の文脈において再考する余地があることを確認した。この内容は本年度9月に京都大学で開催された国際サンスクリット学会の「聖典論」のパネルにて口頭発表された。 2. 真実知の獲得により解脱を実現することを目的とするインド哲学は、西洋哲学が問題としてきた「行為の合理性」という考え方にどのように応じることができるのか。合理性を主題とした中部哲学会におけるシンポジウムにおいて、上記の問題点を整理し、ダルマキールティの行為論・聖典論・ヨーガ行者の知覚論の観点から、インド哲学における<合理性>を論じた。 3. 『人文科学論集』に寄稿した論文にて、プラジュニャーカラグプタによる主宰神の全知者性批判の考察を通して、彼に先行するウッディヨータカラ・プラシャスタパーダによる議論と合わせて検討することで、その特色を指摘した。
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