(1)デジタル化した因明文献の整備と活用については、テキストの整理に当初の予定より時間がかかってしまい、公開に至っていない。早急に公開に向けた作業を進めたい。公開プラットフォームのひとつとして考えているMediaWikiで用いる、本データベース用のエクステンションをいくつか開発した。 (2)因明の形式化に関する予備的な研究として、明治時代の因明書、論理学書におけるベン図の使用について調査した。昨年度から検討している村上専精(1851-1929)や大西祝(1864-1900)らの文献に出てくるものが最も古いものではないかと思われるが、そこには因の三相に基づく3値論理的な要素を認めることができた。また因明の論理学的な性質に関する従来の研究においては、因明が演繹的な論理学なのか帰納的な論理学なのか、あるいはそれ以外の非古典的な論理学なのかについての議論があるが、それに関する研究史の整理を行ったところ、明治初期の日本におけるJ.S.ミルの論理学の受容が大きな影響を与えているのではないか、という仮説を持つに至り、現在その点についても検討を進めている。 (3)研究成果の発表については、東日本大震災等の影響もあって、予定されていた海外での発表や、国内でのワークショップがキャンセルになったこともあり、十分な成果をあげることができなかった。なお、昨年度の研究成果である論文「徳一の三時教判に基づく法華経解釈」(『印度学仏教学研究』59-1(122)、2010)が、日本印度学仏教学会第53回(平成22年度)日本印度学仏教学会賞を受賞した。
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