本研究は、第二次世界大戦期において東南アジア地域に関与した日本の仏教者・仏教学者、ならびに仏教教団の動向について、その実態を明らかにすることを目的とする。フランス領インドシナ、イギリス領ビルマ、イギリス領マラヤ、タイ王国など仏教徒が多い地域における「大東亜共栄圏」建設を目的とした日本仏教の南方関与について取り上げたが、特には、現地仏教徒に対する文化工作、現地仏教事情の調査研究ならびに当該成果の統治政策への応用、以上の二点を基軸に研究を進めた。 本研究の意義は、従来まで明らかではなかった当該時期における日本仏教の南進に、焦点を当てた点である。朝鮮・台湾・満洲・中国など東アジア地域における日本仏教の対外進出は、海外布教研究の文脈から、既に多数の成果が蓄積されてきた。しかし東南アジアについては、研究が進展してこなかった。その理由として、東南アジアに関与した時期と規模が、東アジアに比して小さかったことも背景にあるが、戦時期の日本仏教の南進は、仏教教団の布教というよりは、日本仏教を日本文化の一翼に位置づけて、政府や軍と連携した文化進出が行われていた。そのため、従来まで教団を中心とする縦割りの研究視座からは、大きく欠落していたのであった。 本科研において発表した論文は、限られた時間ではあったため、課題が多く残されたままではあるが、いずれの成果も近代日本仏教と第二次世界大戦をめぐる歴史の空白を埋めたものと自負する。本研究では、国内外における公文書館、大学図書館等での資料調査を実施したほか、遺族や関係者を探し出し、貴重な一次資料の発掘を積極的に行った。その収集した成果は、発表した論文において充分に活用した。 なお本科研による研究は、平成20年度から開始したが、研究代表者が文化庁文化部宗務課専門職へ異動したことにより、期間途中の平成21年9月をもって終了した。
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