今年度は、ジャック・デリダ『友愛のポリティクス』を集中的に読解した。『友愛のポリティクス』の中でデリダは、アリストテレス以来の哲学的言説における友愛の問題を論じているが、その中で問題になる論点の一つは、アリストテレスのものとされる「友たちよ、友が一人もいない」という言葉の、ニーチェによる「敵たちよ、敵が一人もいない」という言葉への転倒である。友愛をめぐるこの謎めいた転倒の中にデリダが読み取るのは、バタイユ以来フランス哲学の中でひそかに問題化されてきた「否定的共同体」、あるいは「共同体なき人々の共同体」の問題である。互いに何事も共有することのないものたち (他者性において捉えられた諸主体) が、いかにして共同性を獲得し、ある種の「否定的共同体」を獲得することができるのか、そのような問いかけは、共同体の構成員たちの共通本性 (国民性、民族性) から共同体を構築するのではなく、むしろそれぞれに独異的であり、差異を孕んだ存在としての各個人のあいだにいかなる共同性が生まれうるかを問題とする。デリダはそのような特異な問題構成から、他者の歓待、非自己固有化としての友愛、といった概念を導き、そうした概念によって自己固有化としての共同性の概念を脱構築しつつ、既存のデモクラシーとは別様の根源的デモクラシーを構築しようとするのである。 研究成果として、デリダを含めたポスト構造主義哲学における抵抗の問題 (上記の問題を含む) を、『権力と抵抗』という書物にまとめた。
|