本年度は、ジャック・デリダの『友愛のポリティクス』、『法の力』と、カール・シュミット『政治的なものの概念』、『独裁』、『政治神学』を並行的に読解しつつ、新自由主義=新保守主義の時代における「例外状態の常態化」(ベンヤミン/アガンベン)という事態について検討した。デリダとベンヤミンによれば、現代的な権力の特徴は、法措定的暴力と法維持的暴力との分離の「停止=止揚」であって、その際に法措定的暴力は法維持的暴力によって「反復されている」。これが意味するのは、グローバリゼーションに伴う「セキュリティ」への関心の増大に伴って、現代の主権権力が、既存の法律の適用にとどまらず、しばしば行政命令という非立法的な手段を通じて法律を「発明」し、セキュリティの確保を図ろうとする、という事態である。こうした「例外状態の常態化」という統治パラダイムの実例を、ジョージ・W・ブッシュ政権下のアメリカ合衆国における対テロ政策、また、サルコジ政権下のフランス共和国における、2005年に起きた郊外での暴動への対抗措置に見出すことができる。こうした事態は、シュミットの概念を用いれば、敵=異質者を排除するための「委任独裁」の常態化に相当する。デリダが「友愛のポリティックス」や「歓待」といった概念を提唱しているのは、新自由主義=新保守主義の時代における、このような「例外状態の常態化」という事態に対してなのである。 こうした観点に基づいて、新自由主義=新保守主義時代の権力メカニズムを考察し、それを著書『新自由主義と権力』にまとめた。
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