本年度は、研究のまとめとして、ジャック・デリダ晩年の代表的な政治的著作『ならず者たち』を取り上げ、集中的に分析した。 ジャック・デリダは、『ならず者たち』(二〇〇三年)の中で「自己免疫[auto-immunite]」という概念を導入し、民主主義の持つある種のパラドックスについて分析している。自己免疫とは、自己に対する侵害から自己を保護するために、自己そのものを破壊してしまうという逆説的な過程である。この概念によれば、民主主義は、「民主主義にとって善いことのために」、民主主義の理念そのものを停止してしまうことがある。こうした考えに従って、例えば、九・一一以後のアメリカにおける「民主主義」や「対テロ戦争」について考えることもできる。 しかしさらに逆説的なのは、デリダがこうした民主主義という政体の自己性、自己権力性、あるいは「自権性[ipseite]」(その範例的な形象は「主権」である)の論理を乗り越えるために、再び「自己免疫」という概念を持ち出していることである。この点をめぐって私たちは、自著『権力と抵抗』において「残虐性なき死の欲動」と名づけたこの「自己免疫」が、いかにして主権に固有な「自権性」を乗り越えることができるのかを、デリダにおける「歓待」の理論から考察した。結論として、私たちはこのような「自己免疫」に関する問いを通じて、デリダにおける「来るべきデモクラシー」の射程について考察した。端的に述べれば、デリダの言う「来たるべきデモクラシー」とは、主権的同一性を異他的なものへと開き、絶対的民主主義を確立せよという定言命法の謂いなのである。
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