当初の計画通り、シュトラウスの思想分析、ローゼンツヴァイクとシュトラウスの比較研究、およびその背景である「(ユダヤ的)歴史主義/反歴史主義」の解明に重点をおきながら研究したが、本年度はとくに以下の二点を念頭において彼らの思想を研究した。 1. 初期シュトラウスが書いたスピノザやヘルマン・コーエンの論文を精読した。とくに彼のスピノザ理解は、その思想を解明する上では非常に重要な役割を果たしていることがわかった(「哲学する自由の問題」やユダヤ教とキリスト教から追放された「中立者」=「哲学者」の位置づけ)。さらにシュトラウスが1922年に書いた「スピノザの遺言」の翻訳(単訳)を「訳者解題」を付した上で『思想』(第1013号、岩波書店、2008年10月)に発表した。 2. ローゼンツヴァイクのテクストおよび二次文献を、改めて「歴史主義/反歴史主義」という視点から読み直した。彼の歴史/時間理解がヘルマン・コーエンとどのように違うのか(「瞬間と解体-H・コーエンとF・ローゼンツヴァイクにおける啓示と倫理-」『聖学院大学総合研究所紀要』第42号、2008年8月)、また「経験する哲学」としての「新しい思考」において彼の「啓示」理解が中心的な役割を果たしていることを解明した(「現実性と真理--フランツ・ローゼンツヴァイクの経験論--」『宗教研究』第358号、日本宗教学会、2008年12月)。とくに彼の啓示理解は「歴史主義」の問題を考えるとき、非常に重要な意味をもっていることを確認できた。なおフランツ・ローゼンツヴァイク「新しい思考」の翻訳(合田正人氏との共訳)を『思想』(第1013号、岩波書店、2008年10月)に発表した。 次年度は上記の研究成果や新しく収集した文献を土台にしながら、ローゼンツヴァイクとシュトラウスの本格的な比較研究の論文を書く予定である。
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