研究概要 |
今年度は、敦煌研究院(樊錦詩院長)の許可を得て、10月26日から29日の3日間、中国・敦煌莫高窟の中唐以降の11窟(第15窟、第92窟、第118窟、第134窟、第144窟、第145窟、第154窟、第180窟、第197窟および付属窟、第237窟)を実見して調査ノートを作成し、あわせて未刊行の十六観図9点についてスケッチをとり、図像研究のもととなる描き起こし図を作成した。この結果、これまでに得られた敦煌の十六観図は、海外流出の蔵経洞将来絹本画を含め計64点にのぼり、現存する敦煌十六観図の七割をカバーしたことになる。これにより、元来阿弥陀浄土の観想に関わる絵画表現である十六観図について、敦煌における具体相の全体像を描きうるだけの材料が得られたといえる。これらのデータの整理・検討は現在進行中であり、研究の成果として最終年度に公刊する予定である。また、前年度に引き続き、敦煌莫高窟・ベゼクリク石窟・キジル石窟を対象に、石窟関連資料のデータ整備を行い、今年度はとくに、前年度に作成していた石窟番号および名称の対照表の追加・修正と、関連資料の補充に重点を置き、さらに石窟地図検索システムを新たに整備した。その成果は6月に「中国石窟データベース」として一般公開した(http://dsr.nii.ac.jp/china-caves/)。加えて、学術的価値の高いペリオの莫高窟図録(Pelliot, Paul. Les Grottes de Touen-houang, 6vols.)の全図版に中国の研究者が付した図版解説文を、莫高窟の窟番号によって整理し、「中国石窟データベース」ともリンク構造をもたせて「ペリオ敦煌図録図版解説」(http://dsr.nii.ac.jp/reference/pelliot/)として構築した(2010年5月公開)。また、観想の意義と内容を十全に備えた唐代西方浄土変の作例として、これまで研究を進めてきた当麻曼荼羅について、調査で得られた知見を取り入れてまとめた小論3篇を、週刊朝日百科『国宝の美』9号に発表した。
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