研究概要 |
平成20年度は,中世の南部文化圏における霊験仏関係の作品や資料についての調査研究を行った.特に鎌倉時代の清凉寺式釈迦如来像の模刻や,南都を中心とする釈迦信仰のあり様を考えるうえで,最重要作品と考えられる京都・峰定寺の釈迦如来立像(解脱上人貞慶周辺において造像)と岐阜・即心院(旧奈良・正暦寺伝来)の釈迦如来立像などについて現地調査を行った.また所属館への借用も行い,詳しく写真撮影などの調査研究も行うことができた.なお両像については関連資料として金沢文庫本『讃仏乗抄』があり,実作品と資料とをつき合わせることができた.以上のことから鎌倉時代の南部を中心に,一尺六寸で金泥塗りの釈迦如来像が,清凉寺式の形式をとりながら,いわゆる宋風受容の指標となっていたことなどを明らかにできた. またいっぽう,鎌倉時代の南都仏師運慶の重要作品である,当文庫保管の大威徳明王像についても調査研究を行った.同像は,建保四年(1216)鎌倉幕府三代将軍源実朝の後宮で筆頭役を務めた大弐局の発願により,運慶により作られた.また金沢文庫には,運慶の活動を考えるうえでの最重要資料の一つ『東寺講堂御仏所被籠御舎利員数』(運慶による弘法大師空海所縁の東寺講堂諸尊像の修理記録)が保管されている.大威徳明王像と同資料を中心に検討したところ,運慶は東寺講堂諸尊像の修理を通して,古典学習を行い大日如来像や大威徳明王などの密教系尊格の造像に反映させていること,かつ修理時の仏舎利発見により霊験仏信仰と密接に関わっていったことなどを明らかにした.特にこの成果については,美術史学会において中間報告的に発表することが出来た(研究発表の学会発表参照).来年度もこの運慶と霊験仏の関係については,中心的な課題として検討してみたい.
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