平成22年度は、南都文化圏における霊験仏信仰とその造像に関連して、過去2年間の調査結果で明らかとなった、南都仏師の代表的存在である仏師運慶と霊験仏信仰について、特に調査研究を行った。そして数少ない運慶作品のうち、奈良・円成寺所蔵大日如来坐像、東京・真如苑所蔵大日如来坐像、栃木・光徳寺所蔵大日如来坐像、神奈川・浄楽寺所蔵不動・毘沙門天立像、愛知・滝山寺所蔵帝釈天立像については、現地での調査の他、神奈川県立金沢文庫特別展「運慶-中世密教と鎌倉幕府-」において出品が実現し、詳しく実査する機会にも恵まれた。 このうち、円成寺大日如来をはじめとする運慶による三体の大日如来坐像と、滝山寺帝釈天像、金沢文庫保管の光明院所蔵大威徳明王像は、弘法大師空海発願の東寺講堂諸尊像との関係性が重要である。すなわち、運慶は密教尊像を造立するにあたっては、東寺講堂諸尊像を常に意識し、参考としていたからである。このことについて、実作品と、金沢文庫保管の『東寺講堂御仏所被籠御舎利員数』(運慶による弘法大師空海所縁の東寺講堂諸尊像の修理記録)などの運慶関係資料、静岡・願成就院所蔵五輪塔形銘札との関係を検討することにより、運慶作品に東寺講堂諸尊像が、仏舎利信仰を結節点として、多大な影響を与えていることが明らかとなった。 以上の成果については、特別展「運慶」の図録の総説や、別冊『太陽』の「運慶」に、その概要を記したが、今後はこの問題について継続的に研究を行い、論文等で報告したい。
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