従来、近世初期の日本絵画研究においては文字史料を重視した名品優先主義の傾向が強く、伝来や史料の残らない作品、無落款の作品などの膨大な資料が「町絵師の作」として研究対象から外れていた。本研究では、粉本使用を理由に研究対象から遠ざけていた作品群の資料的価値を積極的に認め、粉本の使用と絵師間の流通過程を検証することを目的とした。これにより流派を超えた影響関係や接点、経済的支援者との関係が見直され、当時の絵師をめぐる文化的ネットワークの存在が新たな角度から明らかになると考えられる。 本年度は、国外に分布する史料的価値の高い作品の調査研究を行った。主題としては、昨年に引き続き『平家物語』の絵画化作品と「三十六歌仙図」、加えて本年度は「北野天神縁起絵巻」を対象とした。調査はアメリカ・メトロポリタン美術館とバークコレクションを対象に「平家物語図屏風」などを中心に6件行った。また国内の資料調査も同時に行い、東京国立博物館や東京藝術大学の絵師の鑑定控や縮図を中心に粉本調査を行った。
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