従来、室町時代の仏教絵画についての研究成果は非常に少ないが、この研究の状況に対して本調査研究では、当該の領域に関する基礎的なデータを収集して歴史的な意義を考察し、それらを東アジアの宗教美術のなかに位置付けることを目的としている。この目的を達成するために、今年度は次に記した観点から研究を遂行した。 まず(1) 足利将軍家所蔵の中国仏画に対する室町時代の認識については、会所における陳列の方法を分析し、その意義付けを同家の対外関係を重視する政策との関わりから解釈した。とくに、その意義付けを会所における他の唐物飾りとの関係から考察し、これらに対する同時代の認識を分析して、その評価についても考察した。 また(2) 室町時代の水墨画家に関する基本資料については、新出資料である『印譜集』(ハーバード大学燕京図書館蔵)を調査研究した点が特筆される。本資料はアーネスト・フェノロサ(1853~1908)の手稿であり、朝岡興禎(1800~1856)の『古画備考』とともに日本絵画史に関する研究資料として重要である。とくに室町時代の画家に関する記述が多く、室町水墨画の研究における基本文献とみなされるため、これを調査研究したことはとくに大きな成果として特筆されると考える。本資料に関する考察については来年度以降に逐次、研究成果を公刊する予定である。
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