本研究はイタリア南部の民俗舞踊/音楽を地域文化の一環として読み解き、その構造や美学を明らかにすることをめざしている。本年度はその第一段階である実態調査および分析のための基礎データ収集をおこなうため、夏期にカラブリア州、バジリカータ州、サルデーニャ州でフィールドワークをおこなった。複数の村を対象にしたインタビューや祭りなどの行事の参与観察の結果、筆者が確認し着目すべき事象として挙げるのは次の二点である。第一に、同じ舞踊でも地域さらには村(コミュニティ)ごとの多様性があり、それがしばしば強調されること、第二に、伝統芸能が綿々と受け継がれてきた(したがって「・創造」される必要はなかった)と同時に現代に特有の社会的変化から不可避な環境の中で「伝統」がそれぞれの立場から再解釈されていることである。第一の舞踊の地域性・多様性に関しては、現地で収録したビデオ資料の分析を進め、具体的なレベルで様式の差異を検討する一方、コミュニティ意識の問題としてローカル・アイデンティティという観点から言説の分析を試みている。また第二の伝統の問題に関しては、学会の全国大会でのシンポジウムなどを通じて、現代における民俗芸能の在り方をグローバルに捉えることも並行しておこなっている。この二つの問題意識を軸に、さらなる分析・考察を重ね、イタリア南部の舞踊/音楽を通して、最終的には地域文化と伝統の双方を交差的に理解する枠組みを検討していく。
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