本研究はイタリア南部の民俗舞踊/音楽を地域文化の一環として読み解き、その構造や美学を明らかにすることをめざしている。本年度はこれまでのフィールドワークの成果に基づき、その分析・考察結果を一つの新たな論点として国際学会の大会で発表し、論文としても投稿した。また、その成果を活かした研究を発展させていくため、さらなる資料収集を目的にフィールドワークを継続して行った。 大会発表および論文では、民俗舞踊/音楽の考察において不可避な「伝統」という概念をめぐって、イタリア南部の具体的な事例に基づきつつ「多義的な伝統」という新たな解釈の枠組みを提起した。フィールドワークから明らかになったのは、文化の中の主体(エイジェント)によって「伝統」に対する観点も変わるという事実である。本研究では伝統概念に1. エスニシティ、2. オーセンティシティ、3. 芸能体系の伝承の三つのコノテーションの可能性を指摘し、多義的な解釈の必要性と方法を論証した。これは国際大会においてヨーロッパの研究者他からケーススタディとして高い評価を受けた。そこでこの枠組みをベースに、さまざまなエイジェントに注目した多角的な視点からイタリアの民俗舞踊/音楽を考察していくことをもくろみ、カラブリア地方でフィールドワークを継続して行った。現地の楽器を含めた音楽、舞踊、文化や慣習等に関して、参与観察やインタビュー、ビデオによる資料収集等を行い、貴重な分析・考察データを得たことによって今後の研究の発展へ向けたさらなる予備調査ともなった。
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