ドイツでは1898年から10年の間に、「工房」を名称に冠した手工芸の会社が数多く設立された。これらの「工房」という言葉は、中世以来の伝統を受継ぐ、「親方の指揮の下に職人や徒弟が共に手仕事で美術品の制作を行う場」という従来の意味とは少し違う意味で使われていると推察される。そこで、本研究ではまず1900年前後のドイツ手工芸業界を支えた各種「工房」の組織とその制作作品について調査研究を行う。具体的な「工房」についての調査を踏まえ、1900年前後のドイツにおける「工房」概念の変化について明らかにし、その変化の要因を探りたい。 平成20年度は、ドイツ近代工芸工房の中でも大規模に活動を展開し、美術工芸界に強い影響力のあったミュンヘン手工芸連合工房とドイツ工房の調査研究に焦点を絞った。 前期には、ミュンヘン手工芸連合工房の国内における展覧会出品作について記述を行い、展覧会出品作を再構成した。この研究結果は夏季休業後半、紀要論文にまとめた。夏季休業中盤には、ドイツ工房ヘレラウ(Deutsche Werkstatten Hellerau)において、ドイツ工房の主要な出版物の調査、ドレスデンのザクセン州立資料館(Sachsisches Staatsarchiv)において第3回ドイツ美術工芸展(1906年)の内務省文書の閲覧を行った。後期には、ドイツエ房ヘレラウに関する日本語文献の収集を行い、『装飾芸術』誌(Dekorative Kunst)に掲載されているドレスデン手工芸工房とドイツ工房の記事と作品写真を調査し、データベース化を進めた。 以上の調査研究の結果、ミュンヘン手工芸連合工房とドイツ工房は、1. 共に有限会社から株式会社化し、工場を建設し、一家具を量産したこと、2. 二つの工房は図案家を共有し、図案にも類似性が見られること、3. 工房教育はドイツ工房だけが行っていたことが確認された。
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