平成21年度は、近代ドイツの美術工芸工房の中でもドレスデン手工芸工房(後のドイツ手工芸工房)に焦点を当て、これまでに収集した資料を手がかりとして、その国内外の展覧会や万国博覧会などへの出品作についてまとめるとともに、ドイツ手工芸工房附属工芸専門学校・教育工房の資料の収集整理を中心に研究を行った。 ドレスデン手工芸工房の国内の展覧会への出品作については、特に1906年第3回ドイツ美術工芸展ドレスデンの資料をまとめ、『長崎大学教育学部紀要人文科学』76号に発表した。この論文では、1.同展は家具工場が中核となって開催された優れた室内装飾と工芸の展覧会であり、美術工業の分野においては、リーマーシュミートの図案によりドレスデン手工芸工房が制作した機械家具など、来るべき時代にふさわしいと評価される作品が展示されたこと、2.同展における(ドレスデン)州勲章受賞者のほとんどがドレスデン手工芸工房や後のドイツ手工芸工房の仕事に従事したこと、を確認した。 また、平成21年度は、ザクセン州立ドレスデン資料館などでドイツ手工芸工房附属工芸学校・教育工房の資料についても収集を行い、そのカリキュラムや授業内容についても詳細を把握することができた。工房は従来から教育機能を備えていたが、ドイツ手工芸工房も生産の場としてだけではなく、「工房」の教育の場としての側面を重視して工房における教育の組織化を計り、1907年10月から工房に入る前の教育、すなわち工房附属の工芸専門学校と教育工房での一貫教育を始めたことも、近代ドイツ美術工芸工房史における特筆すべき事柄であろう。
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