研究概要 |
本研究は美術運動が産業デザインの発展と多様性に寄与したある様相の解明を目的とし,1960年代イタリアで発祥したアルテ・プログランマータ(Arte Programmata)を対象としている。これは科学技術「プログラミング」の芸術への応用を試み,ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)とウンベルト・エーコ(Umberto Eco)が企画した展覧会としてヨーロッパとアメリカ各地を巡回し,美術史においてキネティック・アートと位置づけられてきた。 2009年度は文献解読のほか前年の現地調査をもとに,イタリア人作家ブルーノ・ムナーリ,エンツォ・マーリ(Enzo Mari),ジェトゥリオ・アルヴィアーニ(Getulio Alviani),グルッポT(Gruppo T),グルッポN(Gruppo N)について研究した。特にグラフィックやプロダクト・デザイン的な制作をしていく点に注目しその要因を考察した。 具体的には,この運動がデザイン文化に力を入れるオリヴェッティ社の支援で始まった事,工業生産という手段に関わる事,多くの作家が産業都市ミラノと関わった事,コンセプトに「オブジェ」「マルチプル」を掲げ,旧芸術への批判精神から「共同研究・制作」を模索し,従来の芸術と異なる観客との関係を成立させようとした事,一人の享受者ではなく大衆に開かれた作品を目指していた事等である。またこうした立場を国際舞台で他の芸術家や研究者と議論した「新しい傾向」への参加が後の制作姿勢に影響を与える過程を調査した。 本研究はこれまでキネティック・アートに位置づけられ近年ヨーロッパでArte programmata e cinetica(プログラムされた動的な芸術)と再評価されるこの運動が,他のキネティック・アートに見られない特徴,デザインへの展開を見せた過程を文化的側面から再考察した点に意義が有る。
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