2009年度は8・9月にアメリカとドイツで一次資料の現地調査を行う一方、それまでの取り組みの一部の成果を盛り込んで、論文「アジプロ隊<メザマシ隊>の演劇について-<脱・制度>の演劇、その十五年戦争の間の変容」を執筆し、10月刊行の日本演劇学会紀要「演劇学論集」で発表した。アジプロ隊とは、1930年代前半の日独で発展をみた、扇動と宣伝を旨とした演劇で、虚構の世界ではなく、現実の出来事を報告調で観衆に示すことを特徴とし、ドキュメンタリー的なピスカートアの演劇と深く関連する。本論文では、日本の代表的なアジプロ隊<メザマシ隊>の、いわゆる十五年戦争期の活動を追ったが、同隊にはピスカートアの仕事をドイツで見聞した演出家の千田是也が参加しており、間接的な影響が認められることを示唆した。 また、<メザマシ隊>、および同時代のドイツ・アジプロ隊の実践が現代の演劇・パフォーマンス研究の見地から再評価しうることを示したのが、2010年3月刊行の共著『演劇インタラクティヴ日本×ドイツ』で担当した一章、「<作品の美学>よりも<作用の美学>を!-戦前の日独アジプロ演劇の実践-」である。同書は日独演劇の類縁性、あるいは演劇人の直接・間接的な交流をテーマとする十章を出来事の時系列に沿って編んだもので、拙稿は、現代の演劇・パフォーマンスの展開を視野に入れ、1920・30年代の日独アジプロ演劇の展開をその前史から示すとともに、当時のピスカートアの仕事が大きな起爆剤かつ推進力となっていたことを明らかにした。 なお2009年度の成果にはならなかったが、2010年6月の日本演劇学会全国大会では、本研究と密に関わる内容の発表、「演劇の異文化接触、1940年代のドイツとアメリカーピスカートア、ウィリアムズ、マリーナの場合」(仮題)を予定している。
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