平成21年度は、前年度に引き続き本研究の中核をなす東京オペラ座の上演台本の資料調査とその個別分析を行った。本年度はグランドオペラ『ファウスト』上演の関東・関西公演の子細調査と、台本翻訳・脚色を担当した小松耕輔に関する遺族への聞き書き調査、東京オペラ座全体の公演記録の調査を行った。これらの調査結果とその分析に関しては、平成22年5月25日にグローバルCOE早稲田大学演劇博物館演劇研究センター「演劇・映像の国際的教育研究拠点」及び同年6月27日に日本演劇学会全国大会(於明治大学)にてそれぞれ成果発表を行う予定である。前年度に調査した「椿姫」と合わせ、これで浅草オペラにおけるグランドオペラ上演の具体的な姿が複数の作品から明らかとなった。 また西洋オペラの受容という観点では、東京に於けるオペラ受容である「浅草オペラ」は、同時代の関西に於けるオペラ受容である「宝塚歌劇」と密接な関係にあった。両者の関係性を上演台本から考察するものとして日本演劇学会全国大会(平成21年6月27日、於大阪市立大学)でのパネルディスカッション「近代の阪神間文化と宝塚歌劇」(代表:川崎賢子)での口頭発表「少女歌劇への憧れと拒絶-小説に描かれたレヴュー・ガールを中心に-」、文部科学省認定・共同利用共同研究拠点・早稲田大学・演劇映像学連携拠点の公募研究「日本の国民演劇としての宝塚歌劇-19~20世紀の日本大衆演劇・芸能の生成に関する研究・興行という視座から-」(研究代表者:細井尚子)での口頭発表「浅草オペラ雑誌からみた宝塚《歌劇》への評価」(平成22年1月30日、於早稲田大学)を行い、更に前者の発表は後に研究論文「乱歩とラン子-江戸川乱歩にみるレヴュー・ガールへの憧憬と拒絶-」としてまとめた。こうした宝塚歌劇に関連した浅草オペラ研究の需要は、前年に本研究代表者の研究が新聞報道されたことを踏まえた上でのものであり、その点で本研究課題が目的の一つとする「関東・関西の研究者間での浅草オペラに関する資料情報と研究の共有・連携」の進展を示すものである。
|