現在、アメリカ合衆国の主要都市には、地域を拠点として創造・発信型の演劇活動をおこなっているリージョナルシアターが存在している。本研究は、このリージョナルシアターの成立・発展過程を歴史的に検証することによって、演劇文化を持続的に支えるための経済的・社会的・文化的基盤が、どのようにアメリカ地域社会において形成されてきたのかを明らかにすることを目的とするものである。 本年度は、(1) 個別のリージョナルシアター事例についての資料収集・分析、および、(2) 日本の公立ホール・文化施設との比較枠組み構築のための調査をおこなった。(1) については、これまでに得たリージョナルシアターの財務データおよび資金調達に関するデータ(ミネアオポリスおよびミルウォーキーを中心とする)の収集・分析をおこない、加えて、ケンタッキー州ルイヴィルにおいて、ヒアリング調査および資料収集をおこなった。それらの成果を、著者によるこれまでのワシントンDCおよびシアトルの研究成果と統合し、論文「芸術でも娯楽でもなく-アメリカ合衆国におけるリージョナルシアターの公共性」として発表した。(2) については、米国リージョナルシアターの定着過程についての文化的・歴史的パースペクティブを獲得するために、比較史的手法を採用し、日本のホール・文化施設のうち、創造・発信型の事業を手がけている代表的なホール・施設に関する文献の収集・読み込み、および現地調査をおこなった。現地調査では、施設の概況および運営状況に関するヒアリング、および基礎的運営データの収集をおこなった。 その成果の一部を、「アメリカ・リージョナルシアターにおける公共性の発見-日本における地域演劇政策の発展のために」として報告した。
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