現在、アメリカ合衆国の主要都市には、地域を拠点として演劇活動を行っているリージョナルシアターが存在している。本研究は、このリージョナルシアターの成立・発展過程を歴史的に検証することによって、演劇文化を持続的に支えるための経済的・社会的・文化的基盤が、どのようにアメリカ地域社会において形成されてきたのかを明らかにすることを目的とするものである。加えて、リージョナルシアターの制度的基盤およびその公共性を比較史的パースペクティヴから検討することによって、我が国の文化政策における課題の、アメリカ的な「解法」を解明することを目的とするものである。本年度は、(1)日欧の公共劇場・ホール事例の調査・資料収集・分析(2)文化政策および非営利団体研究分野における文献調査(3)リージョナルシアターをはじめとする日欧米の公共劇場・ホールの制度的比較枠組みの構築を行った。具体的には、(1)については、前年度に続き、日本における公立ホールの個別事例の調査を行った。(2)については、当該分野における古典的研究文献を原典にあたって通読した。(3)については、前年度の基礎調査をもとに比較枠組みの本格的検討にとりくんだ。その過程で、ヨーロッパ諸国を一つの比較軸とすることは、資料上制約から困難であることが判明したため、日米のみの比較を行うこととした。成果は、12月に日本文化政策学会において特別企画フォーラム「文化政策はいかにして可能であるか-文化政策学の根拠を問うことからの展望-」として組織し、発表された。学会内のみならず舞台芸術や劇場運営のマネジメント現場に携わる人々とも問題の共有をおこなうことができた。特に「文化政策は如何にして可能か-演劇興行の日米比較からの展望」において、現在の文化政策研究が有する課題の洗い出しおよび今後のあるべき方向性の提起をおこない、本研究の成果をひろく発表することができた。
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