1:宅孝二の作曲作品の目録作成 近代音楽館に保管されている宅孝二の未公開の楽譜(自筆譜を含む)の収集・調査を行い、作品目録を作成した。今後、楽曲分析などを行い、作品目録とともに発表する予定である。 2:舞踊に関する活動 (1)東京女子高等師範学校(お茶ノ水女子大学の前身)での舞踊教育への貢献 東京女子高等師範学校在学中に宅孝二のピアノレッスンを受けていたお茶の水女子大学名誉教授の松本千代栄氏は、宅の音楽教育観に強く影響を受けたことを『松本千代栄撰集4』の中で綴り、自らが選曲・構成を務めた文部省学習指導要領準拠の「小学校ダンス」「中学校 高等学校ダンス」(コロムビアレコードの音源は収集済み)に宅の作品をいくつか収録している。また、同著の中には音楽と即興的な動きについての指導案を綴った「『舞踊と音楽』によせて」という宅孝二の論稿も掲載されている。 (2)女子徒手体操のピアノ伴奏 日本で初めて女子徒手体操(床運動)に生のピアノ伴奏が使われた1964年の東京オリンピックで、ピアニストを務めた宅孝二は、彼のオリジナル曲を使った相原俊子氏をはじめ6名の女子選手たちと3年にわたり合宿練習を行った。選手の身体のコンディションによって日々千変万化する動きやリズムに、音楽も完全に同化するよう努めた宅は、体操の選手と音はどんなに密接であるかということを経験したと回想している。当時の選手たちへの取材の中で、現在日本体育大学名誉教授の池田敬子氏は、「生の伴奏によって『音が人間に合わせてくれる』ようになったことで、選手たちの負担が軽減されたことが大きなメリットであった」、と語った。 (1)や(2)の調査を通し、宅孝二にとっての音楽は、決してそれ自体で存在している抽象的なものではなく、実際の身体によって作り出され、舞踏や体操といった身体運動と呼応しあう存在であったことが分かった。
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