研究概要 |
2008年度は、2007年に行った学会発表の成果に基づき、雑誌『美学』に「パウル・クレーの<天使>について-<都市画>との関連から」(第233号)を発表した。この論文では、天使と都市をめぐる精神史的な思索を深める視座として、ヴァルター・ベンヤミンの思想に加えて、ハンス・ブルーメンベルクらの思想を新たな手がかりとしている。次に、天使というモチーフの美学的な考察を展開させるために、ハンス・ゲオルク・ガダマーの哲学思想の理解をすすめた。その成果の一部は、2009年10月に『Aktualitaet des Schoenen(邦訳:『美のアクチュアリティ』)、共訳(監修・大橋良介)、昭和堂、2009.10.として刊行が予定されている。ガダマー哲学における、「祝祭」、「象徴」、「遊び」という3つの要素からの芸術理解は、本研究の近付における天使と都市の意義を考察する上で、有意義な視座となった。第三に、都市および天使についての考えを、現代の都市現象に即して考察する試みとして、日独文化研究所「年報」創刊号(2008.,p.76-85)に「<工場萌え>の考察」を発表した。第四に、クレーの造形作品の実証的な研究をすすめるために、2009年の3月に、スイスのパウルクレー財団等で現地調査および資料収集を行った。この実地調査は、図版では分からないオリジナル作品の色調の確認のためにも、またクレー財団の研究者たちとの最新研究状況に関する情報交換のためにも、きわめて有益であった。これらの成果は、遅くとも2009年度に予定されているバルラッハ研究に連動させて、今年度の研究展開の中に生かしていきたい。
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