史学史ないし史学思想史において従来空白期間として扱われてきた近世中期について、読本を視座として、歴史観より外延を広げた歴史意識という概念に基づいて再検討し、そこに、歴史や記録に残らない庶民の過酷な生に目を向けようとしたり、人間の生をめぐる理不尽さや不条理さを歴史の中に見出したりするような関心のあり方が窺えることを明らかにした。本研究ではその一端を示したに過ぎないが、こうした関心のあり方が、近世歴史意識に対する一般的な認識としてある鑑戒史観や皇国史観という枠に収まらないものであることは明らかである。本研究の成果は、そうした近世歴史意識に対する従来の見方を相対化し、修正するための第一歩として位置づけられる。
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