近世前期最大の孝子説話集『本朝孝子伝』(藤井懶斎編・貞享2年<1685>刊)全5部のつち、序文、「天子」部「公卿」部の書き下し文作成と注釈作業とに取りかかり、作業を終えた。完成年度での全篇注釈完成へ向けて、年次計画通りの作業を遂行できた事になる。 また、『本朝孝子伝』の著者・藤井懶斎の伝記のうち、延宝5年(1677)から貞享4年(1687)までの事跡を明らかにし、論文「藤井懶斎年譜稿(三)-延宝五年から貞享四年まで」(「明星大学研究紀要日本文化学部・言語文化学科」第17号)として発表した。これもほぼ年次計画通りの作業を遂行できた事になる。この論文で扱った時期は、藤井懶斎が『蔵笥百首』『本朝孝子伝』『仮名本朝孝子伝』など、主要な著作を旺盛に刊行した重要な時期である。この間の事跡を具体的に明らかにする事ができた事は収穫であった。加えて藤井の著書刊行意識をも明らかにした。 また上記の作業を通じて、「大名と孝子伝」という新たな発展的研究テーマを見いだすに至った。東アジア比較文化国際会議(6月14日)における口頭発表と論文1日本近世における孝子表彰の発生-孝子説話研究のために」、日本文学協会研究発表大会(6月29日)における口頭発表「近世孝子伝のはじまり-山梨の孝子兄弟と会津藩-」はその成果である。前者は孝子表彰と大名との関わりについて包括的な位置づけを試みたものである。また後者は近世初期のキリシタン弾圧に伴って起こったある孝行事件と会津藩主・保科正之との関わりについてまとめたものである。
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