昨年度に引き続き、『本朝孝子伝』全5部のうち、「士庶」部の書き下し文作成と注釈作業とに取りかかり、作業を終えた。完成年度での全編注釈完成へ向けて、年次計画通りの作業を遂行できた事になる。 並行して、続く「今世」部や仮名版『仮名本朝孝子伝』独自の章段についても調査を行っている。「今世」部に掲載される中江藤樹に関する説話伝播の諸相を「講談『中江藤樹』の成立」として公表した。また『仮名本朝孝子伝』「追加」部「対馬太田氏」については対馬市立つしま図書館への研究出張を行った。その結果、藩の記録『天竜院公実録』に詳細な記録を見出し、太田氏の具体的な居住地も明らかになった。今後の注釈に反映させたい。 もう1つの柱である藤井懶斎の伝記研究については、引き続き作業を行ったが、その著書『大和為善録』の諸本関係が複雑かつ重要である事に気づかされた。そのために諸本調査を改めて行う事になり、本年度の論文公表には至らなかった。年譜完結に向けて来年度以降を期したい。 また昨年度より新たに広まったテーマ「大名と孝子伝」については、『本朝孝子伝』に多く登場する福知山・島原藩主松平忠房について整理し直し、論文「松平忠房の孝子伝」を公表した。
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