本研究には3本の柱がある。(A)『本朝孝子伝』における仏教批判と古典の再評価に関する考察、(B)『本朝孝子伝』の作者・藤井懶斎の伝記研究、(C)『本朝孝子伝』の注釈作業、である。また加えて応用研究として「大名と孝子伝」というテーマを設定している。このうち本年度は(B)と応用研究での業績があった。 (B)藤井懶斎の伝記研究は、72歳から81歳までを「藤井懶斎年譜稿(四)」として発表した。この時期は彼が京都中心地での活動を一区切りし、洛西鳴滝に隠棲後する頃である。この論文では、隠棲の具体的な場所を明らかにするなど新知見を盛り込んだ。なお彼の年譜連載は今年度で完結する予定であったが、新資料の出現などにより記載内容が増えたため、予定を変更して来年度の完結を目指すこととした。 また、応用研究として行ってきた「大名と孝子伝」というテーマについては、会津藩主・保科正之が行った偽キリシタン兄弟の表彰を「偽キリシタン伝の流転」としてまとめ、雑誌『金沢大学国語国文』に発表した。これは近世初期に江戸で起こった偽キリシタン訴えの事件を、会津藩が孝の問題として評価した経緯を跡づけ、近世説話の問題として考察したものである。このほか、江戸時代の教訓書出版の問題は考えておかねばならない問題であるため、「近世前期における仮名教訓書の執筆・出版と女性」を雑誌『民衆史研究』発表した。 (A)については調査をほぼ完了した。来年度に論文形式での発表を予定している。 (C)については未発表ながら、今年度「婦女」部の注釈作業を終えた。『本朝孝子伝』は全5部構成であるが、残すは最終部「今世」部のみとなった。
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