本年度は、当初計画にのっとり小鼓幸流に関する調査を実施した。計画では、東京藝術大学附属図書館・法政大学能楽研究所・土佐山内家宝物資料館所蔵の資料調査を実施する予定であったが、前二機関については計画通り資料の複写等を行った。一方、土佐山内家宝物資料館については、現物資料の撮影許諾を得ることが困難であることが判明したため、現地調査を断念し国文学研究資料館に所蔵されるマイクロフィルムの複写に計画を変更した。国文学研究資料館は、当該資料が高知県立図書館に山内文庫として所蔵されていた際にマイクロ化を行っており、これによってその全容を把握することが可能である。本調査の結果、目録上は単に謡本と記載されている資料中に幸流の手付が記入されていることが明らかとなった。この手付は、宝暦版『能之訓蒙図彙』に記される関口・古春・嶋村・前川などとの関係が窺われるが、詳細な検討は今後の課題としたい。このほか、昨年度より行っている金沢市立玉川図書館の加越能文庫及び藤本文庫に所蔵される加賀藩関係資料の調査を継続して実施し、その調査結果の一部を2009年9月の東海能楽研究会における口頭発表「初代万蔵の初舞台―享保期加賀藩の能」として発表している。さらに、近代における能楽難子の様相を明らかにするべく、論考「伝統芸能になった能楽―明治期における享受者の変遷をめぐって」を『演劇映像学2009』(早稲田大学演劇博物館グローバルCOEプログラム・2010年3月発行)に発表した。本稿は、明治期における能の享受者の変容を同時期の西欧音楽等の状況と比較しながら考察するもので、近代における能楽のカノン化や、明治後期における唾子方養成事業とも密接な関係を持ち、本研究課題の一端を解明することに繋がる成果である。
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