近世期版行の浮世草子、草双紙、読本、軍書、雑史等、ジャンルに拘らずに諸文芸中に見える、源平合戦期の武者達に関する記事を摘出・調査し、謡曲や舞曲等の中世演劇との関連や、浄瑠璃や歌舞伎等との比較・分析を行った。その結果、近世演劇作品中に提示される「源平合戦に関する歴史」観が、中世演劇のテキストと直接的、間接的な交渉を経ており、また、近世期の諸文芸中に示された言説とも関連が見出せることを確認した。そして、こうした近世演劇作品中に提示された「源平合戦に関する歴史」観が、明治期の軍記関連の読本等にも一部、引き継がれ、その影響は、近代の国語科教科書の記述等にも及んでいる例があることを確認した。 今後の研究においては、政治体制側で編纂された史書等には見えない、中世・近世演劇が培った「歴史」観の追跡を継続し、その影響の考察対象を、近代前期の諸メディアにまで拡げる必要があると考えている。
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