平成21年度の研究は、平成20年度夏季にイギリスのBritish LibraryおよびBBC Archiveで収集した、V・S・ナイポールの最初期の文学活動に関する資料分析を継続することから開始した。その結果、さらなる調査が必要であることが判明したため、夏季に再度1ヶ月程度渡英し、平成20年度と同様にBritish LibraryおよびBBC Archiveにおいて資料収集、調査を行なった。さらに資料収集と同時並行する形で、その時点での成果をまとめる作業を開始した。 具体的には、ナイポールの事実上の処女作Miguel Street(1958)の性質が、彼が作家としてデビューする前にエディターとして関わっていたBBCのCaribbean Voicesという番組にかなり影響されている可能性を指摘し、初期のナイポールが、同時代に出現しつつあった英語圏カリブ海ポストコロニアル文学のコンテクストに本人が認める以上に深く関わっていることを論じた論文"'Looking only at My Shadow before Me'?: On V. S. Naipau1's Miguel Street"を執筆した。 さらに、10月末に台湾の中山大学において開催された学会Mapping the World: Migration and Border-Crossingに出席し、この論文を発表、世界各地の研究者からフィードバックを得た。そのフィードバックを踏まえたうえで、論文のリバイズを11月から1月まで行ない、現在企画されている学会の成果をまとめた論文集に2月初旬に候補論文として投稿した。 さらに春季は、もともとの計画では平成21年度に研究する予定であったナイポールの初期の代表作A House for Mr. Biswasについて検討したが、当初の計画のキーワードとした「距離」と「場所」という観点から見た場合、ナイポールについて言いたいことは前出の拙文で論じつくしたとの判断に落ち着いた。
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