研究概要 |
平成20年度から21年度にかけて、国内外の図書館において19世紀のオリエンタリズムに関する基本的な文献収集と検証をし、メルヴィルの全作品中の極東及び南島への言及箇所のリストを作成した。今年度はそのリストをもとに、Mardi、"The Encantadas"、Typeeの3作品の具体的な分析を行ったことが主な成果である。 まず、架空の南島(群島)を舞台にしたMardiにおいて、19世紀半ばのアメリカがその領土拡張主義を正当化するために用いた「明白な運命」のレトリックが北米から南米へ、さらには中国や日本といった極東にまで拡大解釈していく様を読みとった論文『メルヴィルのヤング・アメリカ―『マーディ』における「明白な運命」のレトリック』が『英學論考』に掲載された。また、"The Encantadas"の第8スケッチ"Norfolk Isle and the Chola Widow"に登場するガラパゴスの無人島の一つであるノーフォーク島に一人取り残され生き延びた混血の寡婦ウニーヤの原型を、『テンペスト』の台詞の中にのみ登場するキャリバンの母で船員の娼婦と言われるアルジェ出身のシコラックスに見出した『HunillaはSycoraxか-"The Encantadas"に描かれる「明白な運命」』を、日本アメリカ文学会東京支部シンポジウム「アメリカン・ルネッサンス70周年」において口頭発表した。 実質的な執筆は平成21年度であったが、短編"Bartleby"と資本主義の関係をヨルダンの古都ペトラの描写に着目して論じた"Bartleby, the Scribner":The Politics of Biography and the Future of Capitalism"がMelville and the Wall of Modern Ageの第5章として出版された。また、平成23年6月にローマで開催されるMelville and Rome国際学会の研究発表に応募し受諾された。"A Possibility of "Turning Turk":Typee and Barbary Captivity Narratives"と題し、Typeeに見られるバーバリー捕囚体験記(北アフリカでイスラム国家又は海賊に捕えられた白人の奴隷体験記)の影響を、特にキリスト教徒が異教に改宗する可能性に着目しながら論じる予定である。
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