研究概要 |
従来的な戦後英国演劇史記述は、1970年代演劇を記述するにあたり、モダニズムという術語を回避している。これは、芸術的モダニズムが20世紀前半の運動である、という観点から採用されているため、とみなすことができるだろう。本研究では、モダニズムの再考察、有機体社会(organic society)論の再考察という二つの潮流を踏まえ、モダニズム/モダニティの観点を用いながら1970年代演劇の位置付けを見直す作業の先鞭をつけることを、最終的な目標としている。本研究が主たる考察対象とするのは、ディヴィッド・ヘア(1947〜)及びディヴィッド・エドガー(1948〜)による作品とその上演となるが、二人に影響を与えた演劇人・理論家(例えば、Raymond Williams, John McGrath)などについても、必要に応じて調査・研究を行い、ヘア、エドガー両者の研究を深化させている。 本研究課題を進めていく上での基軸は、ヘア、エドガーらの1970年代上演作品分析、および「有機体性・全体性」をめぐる理論的考察の二つである。本年度は、前者に関わる文献の収集および読解を進め、後者の、本研究課題の理論的作業の基礎となる部分については、文献の収集・読解を進めると同時に、日本演劇学会における口頭報告を行うことで、考察の精緻化を図った。なお、同学会での口頭報告を反映させた形で、「有機体性・全体性」をめぐる考察の論文も英文学関連の雑誌に公表した。
|