本研究は、モダニズムの再考察、有機体社会論が再び注目を集めている現代の研究情勢を踏まえ、1970年代演劇の位置付けを見直す作業の先鞭をつけることを、その最終的な目的とするものである。そのため、本研究では、モダニズム/モダニティ論の新潮流を鑑みたうえでの、分析に向けた理論化作業、およびそれと並行しつつの70年代演劇分析作業を試みた。 本年度は、前者に関わるものとしては、平成20年度、21年度に公表した論文作成過程で培った知見をさらに精緻化すべく、文献解題というかたちで、口頭報告を行った。後者については、所属研究機関の学部内研究会(商学部教授研究会、平成22年6月23日)において、「そこにいるのは何のためか?-現前/再現問題と1970年代末のディヴィッド・ヘア」と題した報告を行った。 口頭報告の準備過程含め、理論研究の本年度内の進展によって明らかになったことのひとつは、1970年代英国演劇を考察するにあたり、戦後英国における"modern"という概念の拡張を踏まえる必要性であり、こうした拡張にともない「感情の構造」にも生じた変化を考察する必要性だった。「感情の構造」は、本研究の理論構築作業の際に大きく依拠したR・ウィリアムズの語法であるが、上述の分析報告の準備過程、ならびに報告後の点検作業で明らかになったことは、とりわけヘア、エドガーらをその代表格とする1970年代の演劇人グループには、ひとつの共通の「感情の構造」を見いだしうる、ということだった。拡張された"modern"概念を踏まえると、1970年代演劇のひとつの特徴として、「疎外されたもの」同士の共同性、という「感情の構造」を析出することが可能であり、これと上演形式を切り離すことができない、と考えられる。この観点は、今後の70年代英国演劇研究に寄与しうるものと思われる。
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