研究概要 |
本研究は、20世紀アイルランドを中心にマイナー文学としてのアイルランド語文学と、高い評価を得てきたアイルランドの英語文学の相関関係を追及しつつ、アイルランド語文学の立場から英語文学を照射する可能性を探る試みである。アイルランドの歴史や社会の状況と、アイルランド語文学の伝統を踏まえた上で、アイルランドの作家たちの作品を新しい角度から読み込むことを目的としている。こういった観点のもと、七世紀アイルランドの修道女Liadanの作とされる古アイルランド語詩が、20世紀に入って多数の詩人や学者によって翻訳されていることに注目し、その翻訳作品を収集し、読解と比較を行い、原詩の持つ解釈の幅と曖昧性を追究した。対象にしたのは、Frank O'Connor, Seamus Deane,Gerald Murphy, Kuno Meyer, Ruth P.M. Lehmann, Sea/n Mac Mathghamhnaの翻訳、Liadanの作品にインスピレーションを得たKatharine Arnold Priceの作品である。 平成21年度の研究のもう一つの柱は、現代アイルランド女性詩人ヌーラ・ニゴーノルの人魚をめぐる37の詩篇をアイルランド語から日本語に翻訳する作業の総括である。詩人論として「詩人ニゴーノルとその言語観」、16世紀以降の英文学で描かれてきた人魚とニゴーノルの人魚との比較に基づく試論「ニゴーノルの人魚-知られざる人魚たちの素顔」、連綿と続く境界感覚の揺れに着目してヨーロッパにおける人魚の歴史をたどった「人魚をめぐる試論-人との境界のゆくえ」を執筆し、訳詩集『ヌーラ・ニゴーノル詩集-アイルランドの人魚歌』の巻末に添えた。
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