研究概要 |
本年度の研究の中心は、英国19世紀末の「新しい女」を代表する一人であるGeorge Egertonの短編小説群の中で音楽や音楽的感性がどのような機能を持つものとして描かれているか、またその際どのような文体が選択され用いられているかを検討・分析することであった。EgertonのKeynotes, Discordsといった短篇集は音楽用語をタイトルとし、音楽に重要な役割を与えているにも関わらず、これまで音楽とのかかわりにおいて彼女の作品を正面からとらえようとした批評がほとんど見当たらないからである。2008年7月にBristol大学図書館でEgertonのThe Wheel of GodやRosa Amoroseといった文献の閲覧を行い、7月のThomas Hardy Conference、9月のThe Third lnternational George Moore Conference、2009年3月のSound,Silence and Literature Symposiumなどの学会で同分野および近接分野の研究者たちとの意見交換の機会を持った。特にCork大学のMary Pierce博士、Nanyang Technological UniversityのAngela Frattarola博士とは、19世紀末からモダニズム期にかけての音楽的メタファーについて話し合うことができ、有意義であった。 Sound, Silence and Literature Symposiumでの口頭発表においては、Egertonの短編小説とGeorge Mooreの小説との比較分析を行った。新しい時代の行動規範を切り開いていく予言的能力を登場人物の音楽的感性と結びつけるテーマの類縁性、および共通した文体上の特徴から、この二人のアングロアイリッシュ作家のテクストが従来考えられてきた以上に相互に影響しあい、発展した可能性について検証を試みた。
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