今年度は、エリザベス・ケイディ・スタントンが1848年に発表した「所感宣言」および1892年に出版したThe Women's Bibleを中心に、女性解放運動と宗教における女性の位置にどのような相関関係があったかを重点的に考察した。扱う期間は「所感宣言」が出された1848年から南北戦争が終わる1865年までと、女性参政権協会が設立される1876年から普通参政権が憲法修正条項により認められる1920年ごろをひとつの区切りとした。 アメリカ独立宣言文を女性のレトリックで読み替えた「所感宣言」は、スタントンが抗議活動を行う出発点であったことはっとに知られているが、こうした男性が中心となっている言説空間に参入するスタントンのスタイルは、1860年に刊行した"The Slave's Appeal"にも顕著に表れていることが明らかにできたと思われる。このスタイルは後のThe Women's Bibleにまで引き継がれている。The Women's Bibleでスタントンがみせた父権制度への異議申し立ては、19世紀末に表出されたものであるが、女性思潮史的に辿ることで、来年度の研究対象である、19世紀半ばに活躍したチャイルドとの接点が見えてきた点で、成果があった。また、スタントンをはじめとした女性参政権の運動は、アメリカ国内にとどまらず、女性医師エミリー・ハワード・ストウを中心としたカナダでの女性参政権運動にも大きな影響を与えていることがわかり、この問題は北米全体で見ていく必要があることが明確となった。
|