研究概要 |
本研究の目的は、ヴィクトリア朝の多様な出版形態が、当時の作家たちの中心的存在であったアントニー・トロロプの作品にどのような影響を及ぼしたのかを解明することにある。 研究の最終年度にあたる本年は、トロロプの作品には非常に珍しいことに、すべての号で2章立てが採用されている連載小説の『ベルトンの屋敷』(1866)を取り上げて、その2章立てという構成がこの作品にもたらす影響について考察した。その結果、『ベルトンの屋敷』では登場人物が少ないことも作用して、1人の女性をめぐりライバル関係にあった2人の男性の対照的な性格や行動ばかりが強調され、全体的に単調な印象を与えていたことがわかった。この作品以降、晩年に書かれたあるひとつの短い作品を除き、トロロプがすべての号を2章立てとする手法を使用することはなかったが、『ベルトンの屋敷』の翌年に発表された彼の代表作のひとつである『最後のバーセット年代記』(1867>では、3章立てと4章立てに交じり一部の号で2章立てが使われている。そこ,で、この作品における2章立ての号を詳細に考察した結果、2章立てが連続して使用される時には必ず何らかの工夫がなされていることがわかった。例えば、同一あるいは異なる登場人物による類似した行動で統一された号と対照的な行動で統一された号が交互に配置されていたり、類似した行動からなる号が続く際には、すべて異なる人物に焦点が当てられていた。これらのことから、『ベルトンの屋敷』とは大きく異なり、トロロプが『最後のバーセット年代記』の2章立ての号において、単調な印象を避けるべくバランスを意識した最大限の配慮をしていることが判明した。そこで、この研究成果を礎化する2章立て-トロロプの『ベルトンの屋敷』から『最後のバーセット年代記』へ」(『英米文化』第42号)として論文にまとめた。
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