本研究の目的は、モダニズムの芸術に大きな影響を与えたアンリ・ベルクソン(Henri Bergson)の哲学が、本人の生前から今日に至るまで、いかに評価されてきたか、あるいは誤解されてきたかを分析しながら、モダニズム文学に対する新たな見方を探ることである。初年度である平成20年度には、資料の収集と分析を主に行った。特に、雑誌『リズム』(Rhythm)に携わることによってイギリスの文壇にベルクソン哲学を紹介する役割を担ったキャサリン・マンスフィールド(Katherine Mansfield)と画家のJ. D. ファーガソン(J. D. Fergusson)の作品を通して、ベルクソン哲学の影響について考察した。このことについては、平成20年9月にロンドン大学で行われたキャサリン・マンスフィールドのイギリスへの移住100年(および生誕120年)を記念した国際学会において口頭発表("Katherine Mansfield's Early Writing and Henri Bergson")を行っており、これをもとにした論文を来年度に発表する予定である。また、マンスフィールドやファーガソンに関連してベルクソンの功績が指摘されることが少ないにもかかわらず、ベルクソンを読んだことがないと自ら語っていたヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)が典型的な「ベルクソニアン」作家と見なされてきたという事実に着目し、ウルフに関する研究を進めている。
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