今年度はまず昨年度に実施した研究成果である「ヘミングウェイと1930年代のアフリカ」について、学会誌の編集作業の遅れにより、今年度に入ってからも加筆修正等の作業を行い、その成果が『北海道アメリカ文学』第26号に掲載されることとなった。 また今年度においては、主に『日はまた昇る』および「ワイオミングのワイン」に描かれる登場人物たちの飲酒とそれとの関わりにおける民族的少数派の描かれ方について検討した。アメリカの1920年代を席巻した人種差別と禁酒法との関わりについては、すでにエドワード・ベアによる研究書『禁酒法-アメリカを変貌させた13年間』において、禁酒法とは「飲酒の習慣をアメリカに持ち込む移民数を制限あるいは彼らをワスプの文化に強制的に同化させる政策の一環である」と指摘している通りである。そこで、禁酒を徹底していたオークパークで生まれ育ったヘミングウェイが、なぜ故郷の文化に反抗して自ら酒を楽しみ、また作品に描きこんだのかといった問題や、禁酒法の底流に潜んでいたワスプの人種意識がどの程度作品に投影されているのかを検証する作業を通して、ヘミングウェイの民族的少数派に対する姿勢、またそれが当時の読者のいかなる思想を物語っているのかについて探求した。この研究成果については、日本アメリカ文学会北海道支部第145回研究談話会において口頭発表し、日本ヘミングウェイ協会の『ヘミングウェイ没後50年記念論集(仮)』に投稿、審査中である。
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