本研究の第一年目にあたる2009年度は、研究テーマである文化事象「詩の夕べ」に関する基礎情報・基礎資料の収集と、「詩の夕べ」が登場した1960年代イランにおける新興都市文化の勃興、および、これらの多元メディア文化と新体詩との交感を考察することが主たるテーマであった。 まず、研究代表者は、5月に現地イランへ赴き、資料収集と閲覧を行ったほか、「詩の夕べ」の形成において中心的な役割を担った詩人アフマド・シャームルーの現地研究者・批評家・版権所有者らと意見交換を行い、彼の詩の分析を進めた。これについての成果は、シャームルー公式HP日本語サイトを開設しweb上でも発表する予定であったが、2009年6月末の大統領選以降の政治的混乱で、現地研究者とインターネットに関連する技術的協力が困難となった。2010年度に改めて、webサイト開設とシャームルー詩に関する成果発表を行いたい。 また、5月のイラン来訪時には、1960年代の前衛詩運動の中心的存在であった詩人のアフマド・レザー・アフマディーと交流し、資料・情報収集を行った。さらに、彼の童話作家としての活動が、2010年の国際アンデルセン賞(作家賞)候補となったことも受け、彼の童話の表現世界と詩の世界との関わりを分析し、イラン研究会にて研究発表を行った。 これらに加え、イランを代表する小説家であり、1970年代のより政治化した「詩の夕べ」開催において中心的役割を担った小説家フーシャング・ゴルシーリーの作品の翻訳と作品分析を『イラン研究』誌において発表した。 なお、2009年5月には、上記二人の詩人を含む12人の詩人の作品訳を収めた(うち、研究代表者は5人の詩人の訳と解説を担当)『イラン現代詩集』を刊行した。同書には、現代イラン詩についての論考(前田君江「真珠の首飾りの破壊者たち~韻律詩から新体詩へ~」)も収めている。
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