本年度は以下の実績をあげることができた。 (1) 研究成果の発表:11.研究発表に記した論文、(1)「郁達夫における大正の自伝的恋愛小説の受容-『懺悔録』・『受難者』・『新生』」、(2)「郁達夫与佐藤春夫-再論佐藤文学対郁達夫的影響」、(3)「郁達夫の読書体験-日本留学時代を中心に」を公表することができた。(1)はルソーを出発点とする大正日本における自伝的恋愛小説の系譜を、郁達夫における受容を通して論じたもので、(2)はしばしば論じられてきた郁達夫における佐藤春夫受容について、これまでと異なる角度から光を当てたもの、(3)は大正日本における郁達夫の読書経験の全体像を概観したものである。さらに続稿を準備しており、継続して公表して行きたい。 (2) 書籍の購入:本年度も科学研究費補助金を利用して、郁達夫の大正文学受容と関わる資料や研究書を購入することができた。本年度はことに郁達夫が触れたと思われる日本・外国文学についての書籍を中心に、基礎的な資料となる文献類を購入した。現在資料や先行研究の分析を順次進めている。 (3) 資料収集・現地調査:12月に杭州とその周辺都市で郁達夫の足跡についての資料収集と現地調査を行った。特に郁達夫の出生地である富陽、中学時代と1920年代後半から30年代前半を過ごした杭州の故居を訪れて現地を視察するともとに、現地の出版社が刊行する書籍を収集するなど、大きな収穫があった。
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