平成20-21年度にかけて、14世紀末から15世紀前半の著名な文筆家エピファニィ・プレムードルイの代表作「ペルミのステファン伝」と「ラドネシのセルギー伝」における双数形の用法の分析を行ってきたが、今年度はその集大成となる論文を執筆し、ロシア科学アカデミーロシア語研究所発刊の査読論文雑誌《Русский язык в научном освещении》に投稿した。論文では、双数形の用法に関して文法・語彙レベルでの制約とテクストレベルでの制約について論じ、特定の語彙・語結合においては伝統を遵守し必ず双数形が用いられるが、それ以外のケースでは、とくに神、聖母などが現れる「夢見」のエピソードでは人間に対して双数形の使用が控えられることを明らかにした。合わせてこうした現象のロシア語史における意義、エピファニィの言語の特性を検討したが、審査員からは研究テーマのアクチュアルさと視点の斬新さが高く評価され、同雑誌21号(2011年8月刊行予定)に掲載されることとなった。また、本年度は15世紀にルーシで活躍したセルビア出身の文筆家パホーミィによる「ラドネシのセルギー伝」諸系統本における双数形の分析を開始し、その最初の成果として、近年発見されたパホーミィの直筆写本の分析結果を日本ロシア文学会第60回全国大会で報告した。パホーミィとエピファニィの双数形の用法には共通点とともに違いも認められ、その分析は15世紀ルーシにおける双数形使用の特徴を解明する手がかりを提供し得る。
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