本年度ははじめに、これまでに収集した語彙と談話データによりシンブー諸語の中でのドム語の通時的な位置づけに関する研究、および談話資料に現れる従属節の性格に関する研究を進めた。前者については4月と5月に総合地球環境学研究所で、後者については7月に国語研究所で発表をし、現地調査による言語研究者と意見を交換した。 現地調査に先立ち応募者がこれまでに集めたドムの動植物の生態についての知識や資源利用の仕方に関するデータを整理した。8月から9月にかけての現地調査では記録の少ない方言を主な調査地として、これまでのデータを補う形で動植物に関する語彙・談話収集を行った。Maranz PMD660(録音機)+AKG C1000Sで録音し、重要なものについては話者と協力しながら書き起こした。写真による記録、GPSによる調査地点の記録も行った。 3月には関連するプロジェクトである基盤研究(B)#20320065(研究代表者大西正幸)の予算でシンブーを中心に現地調査、ドム周辺地域の言語方言踏査を行なった。 ドム周辺の言語方言の調査により、シンブー語の中ではニマイ・ディカが言語的にドムに最も近いこと、およびスワウェとノマネがドムとは系統的に遠縁にあたることがほぼ確実になった。方言分岐の歴史と語彙の分布の一致とずれの一部が明らかになったほか、ニマイの植物語彙についての先行研究とドム語の植物語彙の対照を始めることができた。
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