研究概要 |
今年度は、まず、前置詞・後置詞句の各言語(日本語、英語、北欧諸語)の分布の記述を行うためのデータ収集を行った。英語に関しては、先行研究、コーパス資料、ネイティブスピーカーのインフォーマント調査を行った。北欧諸語については、Reference grammar, 先行研究を参照した。また、英語において前置詞句のスケール構造が決定的に文法性に関わるとされている現象を再検討した。 その結果、次のような結果を得られた。まず、英語と北欧諸語の前置詞句には、それぞれ違いはあるものの、統語的にはPlace, Pathなどの下位構造をもったPPとして扱うことができることが明らかになった。また、この統語構造を構成的に意味構造へ写像することも可能である。一方、日本語の後置詞句は、Place, Pathといった下位構造には分割できないように思われる。しかし、意味論的には英語等と同様の制約を示す。この点については、次年度、引き続き検討する必要がある。 次に、英語の移動様態を表す非能格自動詞の他動詞用法は、ともに用いられる前置詞句の意味構造におけるスケール性とその閉鎖性が文法性を決定するとしばしば議論されてきたが(Levin and Rappaport Hovav(1995))、前置詞句のタイプと他動詞用法のタイプを詳細に検討し、この現象はむしろ態変化(適用態形成)によって説明されるべきであることを示した。 以上、前置詞句・後置詞句の意味論的共通性と統語的相違が(ある程度)明らかになったこと、また、前置詞句の持つスケールと関連付けられていた現象が他の要因によっていることを明らかにしたことによって、統語論・意味論がどのように関連付けられているか(統語論・意味論インターフェース)を解明する手がかりを得ることができた。
|