昨年度に続き、資料収集の活動を行い、「祝」・「宗」・「巫」に関する考察に主眼を置き、関連する諸見解を適切に検討した上で、論文をまとめて独自の構想を提出してみた。とりわけ公刊されたばかりの『殷墟甲骨輯佚-安陽民間藏甲骨』、『新甲骨文編』などの資料を積極的に利用し、それらを丹念に調べ、関連卜辞を網羅して研究を行ってきた。 まず商代の諸種の聖職者について、それぞれの甲骨文字の字形によって本義を探究し、その役割を考察してきた。次に董作賓氏の断代基準(近年の研究成果により若干の修正を加えられたもの)によって、それぞれの関連卜辞を全て時代順に配列し、通時的な視点からその系統や変遷を実証的に分析している。甲骨だけではなく、先行研究で等閑視されてきた考古資料にも注目し、商代の聖職者に関わっていた文物を取り上げ、慎重に考証を行った。更に文字と信仰を文化史の流れに正確に位置づけて、それらの源流を体系的に明らかにする。本研究は、甲骨文字の字形や卜辞の断代の綿密な考察に基づいて、幅広く股代文化全般を視野に入れ、その信仰の源流にも遡りつつ、多面的に考察している。商代の聖職者に関する疑問点の解明を試みながら、広く中国文化史全体の基礎の上に据えて商代信仰の様相を探究してきた。 また、学術誌に投稿するほか、商代の聖職者に関するデータベースや論文をホームページに公表し、積極的に研究成果を発信する予定である。このような努力によって、関連研究分野の進展に寄与すると共に、社会にも古代文明に関する研究成果の一端を伝えたい。
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