今年度の研究実施計画に従い、主節に現れる他動詞の主語・目的語、自動詞の主語等の格標示についてデータの収集を行った。奈良時代語の分析では、『萬葉集』『古事記』『日本書紀』『続日本紀宣命』等の調査を、古代琉球方言の分析では『おもろさうし』の調査を行った。 また、形状性名詞句が主語節となり、なおかつそれが動作主であるときに節末に助詞イが伴うという、近藤泰弘氏による説について検討を加えた。その結果、古代日本語の活格性に近藤説が深く関わっており、類型論的な観点からなお考察を加えていく必要のあることを碓認した。このような見通しの下、上代文献に現れる形状性名詞句の主語節を収集し、さらに用例の収集は、小川本願経四分律古点、西大寺本金光明最勝王経古点等の平安時代初期の漢文訓読文に及んだ。 近藤説に関連して、石垣法則の位置づけも重要である。近藤氏によれば、奈良時代では、動作主である形状性名詞句の主語節の明示が助詞イの標示によって行われていたが、平安時代になると、石垣法則の一部によって、すなわち主語節末の述語を状態性にすることによって同じ効果が得られていたとされる。今年度の研究では、このような石垣法則の位置づけについて、特に状態性の解釈と活格性との関わりについて見通しを得ることができた。 日本語(時代語や方言を含む)の活格性については、これまでその可能性が指摘されることがあっても、十分な証拠が示されるに至っていない。本研究は、日本語の格標示体系の記述のために、活格性のより確かな証拠を見出そうとする試みである。
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