研究概要 |
本研究の目的は、現代日本語において「壁にペンキを塗る」と「壁をペンキで塗る」のような格体制の交替現象が生じるメカニズムを明らかにすることである。 本年度は、なぜ「塗る」等の動詞は交替を起こし、一方「付ける」「汚す」等の動詞は交替を起こさないのかという、交替の可否に関する問題に取り組み、以下の点を明らかにした。 (1) 従来の研究では、「交替を起こすのは位置変化と状態変化を表す動詞である」と述べられてきたが、この記述では現象の言い換えになり、説明にはならない。交替動詞と非交替動詞の違い,を説明するには、交替動詞が位置変化の中でもどのようなタイプの位置変化を表し、状態変化の中でもどのようなタイプの状態変化を表すのかを明らかにする必要がある。 (2) 上記(1)の観点から分析した結果、交替動詞の表す位置変化や状態変化は、それぞれ「依存的転位」や「総体変化」として特徴づけられるものであり、両者の読み替えによって交替が起こることが明らかになった。一方、「付ける」や「汚す」等はこのようなタイプの位置変化、状態変化を表さないため、交替を起こさないのである。 (3) 申請者の上記のアプローチは、「動詞の範疇的語義に階層を考え、従来の研究が着目していた階層よりも下位の階層に着目する」というアプローチである。これは、他の交替現象の分析にも有効である可能性が高く、関連する複数の交替現象の体系的記述を可能にし得るという点でも有意義なアプローチであると考えられる。 以上の成果を中心に、第9回日本語文法学会(2008.10.19)等で研究発表を行った。
|